教育委員会の事務局で働いていると、「この経験は民間で通用するのだろうか」と不安になる人もいると思います。学校や教育の制度に結びついた仕事が多く、市役所のほかの部署より外の世界が見えにくいからです。
教育委員会事務局の行政職員は、民間への転職を目指せます。ただし辞める前に、異動で教育委員会を離れる道と比べてから決めたほうが、後悔は小さくなります。
この記事は、市町村の教育委員会事務局で働く行政職員(教員ではない人)に向けて書いています。私は市役所に15年以上勤め、総務部総務課・保険年金課・教育委員会総務課に在籍し、教育委員会総務課では予算要求資料を作りました。
教育委員会から民間へ転職できる?結論と前提
事務局の行政職員でも、民間への転職は目指せます。民間への応募では、部署名より、そこで担当した業務が問われるからです。
市町村の事務局で働く職員の多くは、首長部局と一体で採用・異動する行政職です。「教育委員会の経験はつぶしがきかない」という悩みは、部署名や制度の名前のまま書類に書いたときに起こりやすいものです。
まずは自分が民間からどう見えるかを知っておくと、書類に何を書くかで迷いにくくなり、応募先選びも早く進みます。
事務局で働く事務職員の多くは市役所の行政職
文部科学省は、「教育委員会は、首長から独立した行政委員会として全ての都道府県及び市町村等に設置。」と説明しています。教育委員会は、常勤の教育長1人と非常勤の教育委員4人の原則5人で構成されます。
その事務を処理するために置かれるのが事務局で、教員から充てられることがある指導主事と、事務職員が同じ組織で働きます。事務職員の多くは、市役所のほかの部署と同じ行政職です。
応募先から見れば、教育委員会の経験も市役所の行政職の経験の一つです。教員や指導主事の転職は、この記事では扱いません。
教育委員会の経験は本当につぶしがきかないか
つぶしがきかないと感じる理由は、2つに分けられます。1つは、仕事が学校や、教育長・教育委員といった教育委員会に固有の仕組みに結びついていて、制度の名前のまま書くと民間に伝わらないことです。
もう1つは、相手が学校や教職員、都道府県の教育委員会で、民間の顧客や取引先に置き換える発想が出にくいことです。書類を読む側の目線を、私なりに3点に整理すると次のようになります。
- 何を担当し、誰を相手に、どんな結果を出したか
- その経験が、応募先の仕事で再現できるか
- 制度や組織の説明ではなく、本人の動きが書かれているか
相手や制度は異なりますが、予算要求、文書作成、関係者との調整には、首長部局の仕事と共通する動きがあります。私も総務部総務課と教育委員会総務課の両方で、予算要求資料を作る仕事を担当しました。
私の書類通過率は民間の事務職で2割だった
私は市役所に在職したまま、10月から翌年3月まで転職活動をしました。応募したのは民間の事務職で、書類の通過率は2割程度、内定は1社でした。
理由までは分かりませんが、私の結果は、簡単には通らない前提で準備を始める材料にはなります。入社した会社では、求人票の印象と実際の仕事が違い、6か月で辞めています。
(関連記事)事務職を6ヶ月で辞めた私の失敗と学び
辞める前に比べたい異動で離れるという選択肢
「教育委員会を辞めたい」が「市役所を辞めたい」と同じかどうかは、辞める前に見分けておく価値があります。市町村の教育委員会事務局では首長部局と一体的に人事異動が行われることが多く、教育委員会を離れる道には「異動を待つ」という選択肢もあるからです。
つらさの根っこが教育委員会の仕事にあるなら異動で解決する可能性があり、市役所全体の働き方にあるなら異動しても残ります。私も首長部局(市長部局)と教育委員会総務課の両方に在籍し、同じ市役所の中で部署が変わる働き方をしてきました。
異動を待つか、他自治体を受けるか、民間へ出るかは、かかる時間と自分で決められる範囲で比べます。

市町村等の97.8%は首長部局と一体で人事異動する
文部科学省の令和4年度間の調査では、教育委員会事務局と首長部局の人事異動が「一体的に行われている」のは1,681の市町村等(97.8%)でした。教育行政職として独自に採用している市町村等は、0.9%にとどまります。
市町村の行政職には、教育委員会から首長部局へ異動する可能性があります。ただし実際の異動の時期や行き先は自治体の運用によるので、人事担当や先輩に確かめます。
行政職が教育委員会をどう見ているかは、国の会議でも話題になっています。別の会議資料には、委員の意見として「教育委員会事務局が行政職にとって魅力ある職場として選ばれる部署になる必要があるのではないか」という記述もあります。
(出典)文部科学省:教育委員会の現状に関する調査(令和4年度間)/文部科学省掲載の会議資料:第1回から第14回までの意見等について
つらさの根っこが教育委員会か市役所全体かを見極める
教育委員会の仕事がきついかどうかは、人と自治体によって違います。制度上言えるのは、首長部局との庁内の調整に加えて、議会や都道府県の教育委員会など、複数の関係先との接点がある組織だということです。
自分の理由がどちらにあるかは、次のように仕分けると見えてきます。
- 教育委員会にいる間だけの理由:学校や教職員、都道府県の教育委員会との関係、教育委員会に固有の制度や手続き、いまの上司
- 市役所全体の理由:給料や昇進の仕組み、異動の周期、働き方、市役所という組織そのもの
見極め方は、異動のつらさを扱った記事でも詳しく書いています。
(関連記事)異動のつらさの根っこがどこにあるか見極める
異動を待つ・経験者採用・民間転職の3つを並べる
教育委員会を離れる道は、次の3つに分けて比べると決めやすくなります。
| 比べる点 | 異動を待つ | 他自治体の経験者採用 | 民間転職 |
|---|---|---|---|
| 変わるもの | 部署だけ | 組織 | 組織と働き方 |
| 自分で決められる範囲 | 時期も行き先も人事次第 | 受ける自治体と時期 | 応募先と時期 |
| かかる時間 | 次の異動まで(周期は自治体による) | 試験の準備と採用時期まで | 在職中の活動で数か月(私は約5か月) |
| 向く人 | 根っこが教育委員会にある人 | 公務員は続けたいが組織を変えたい人 | 働き方ごと変えたい人 |
経験者採用と民間転職を並行して進める考え方は、別の記事で整理しています。民間を選ぶなら、次に決めるのは教育委員会の経験の言い換え方です。
(関連記事)経験者採用と民間転職の併願が現実解になる理由
教育委員会の仕事を民間の業務名に置き換える
教育委員会事務局の仕事のうち、学校を支える事務、予算要求、首長部局や都道府県との調整を例に取り上げます。それぞれの動きは、民間の管理部門や企画、顧客対応に近い表現で整理できます。
私が担当したのは予算要求資料の作成で、ほかの仕事は、文部科学省の説明と法律に定められた事務をもとに、想定される実務の例として整理しています。言い換えのコツは、制度の名前を前面に出さず、「誰に何を出して、何が決まったか」を中心に書くことです。
担当した動きを細かく分けるほど、求人票の言葉と結びつけやすくなります。
予算要求資料の作成は財政部局への説明に備える仕事
地方教育行政の組織及び運営に関する法律では、教育委員会の所掌に係る事項について「予算を執行すること」は首長の職務とされています。首長は、教育に関する予算の議案を作るときに教育委員会の意見を聴くことになっています。
つまり法令上、予算の議案を作り、予算を執行するのは首長で、教育委員会は意見を言う側です。この役割の分担が、教育委員会でいう「財政部局との調整」の背景です。
私が教育委員会総務課で担当したのは予算要求資料の作成で、この資料は一般に、要求の根拠を数字と文書で示すものです。求人票でよく見る言葉に当てはめると、「予算編成の資料作成」「部門予算の起案」「経営企画への説明資料の作成」などが近いと私は考えています。
学校・教職員・就学の事務を民間の業務名で言い換える
法律では、教育委員会が管理・執行する事務として、学校の設置や管理、教職員の人事、就学、学校給食、社会教育などが挙げられています。市町村立学校の県費負担教職員の任免は都道府県の教育委員会が行い、市町村の教育委員会は内申と服務の監督を担います。
| 教育委員会の事務 | 誰を相手に何をするか | 民間の業務名(求人票の言葉) | 書類で残す動き |
|---|---|---|---|
| 予算要求 | 財政部局に要求資料を出し、査定を受ける | 予算編成・経営企画の資料作成 | 根拠の組み立てと説明 |
| 学校施設・設備の整備 | 修繕や整備を計画し、業者と進める | 施設管理・購買 | 計画と業者との調整 |
| 県費負担教職員の人事事務 | 内申の書類を都道府県に出し、服務を監督する | 労務・人事事務 | 期限内の書類処理と確認 |
| 就学・学務 | 入学や転学の手続きを受け、案内する | 顧客対応・事務センター | 要件の確認と案内 |
| 社会教育・文化財 | 公民館や施設の事業を運営する | イベント運営・施設運営 | 企画と運営 |
| 教育委員会会議の事務 | 会議資料を作り、日程を整える | 会議体運営の事務 | 資料作成と日程調整 |
表の民間の業務名は求人票でよく使われる言葉の例で、仕事の細部は求人ごとに違います。
(出典)e-Gov法令検索:地方教育行政の組織及び運営に関する法律
首長部局や都道府県との調整は相手別に書き分ける
職務経歴書では、首長部局とのやりとりは「他部門との調整」、都道府県の教育委員会・学校・業者とのやりとりは「関係機関や取引先との折衝」と書き分けると伝わります。
書類には「調整しました」ではなく、「誰に、何を、いつまでに出して、何が決まったか」を書きます。たとえば学校施設の担当なら、「学校の修繕計画を作り、業者と工程を調整した」のように動きを残します。
教育業界と一般企業の事務職のどちらを狙うか
行き先は、大きく3つの方向に分けて考えられます。大学職員・教育系企業、一般企業の事務職、自治体向けに事業を行う企業です。
募集の時期や人数は求人ごとに確かめます。
どれが正しいかではなく、教育に残りたいのか、事務の動きを活かしたいのか、自治体の内側を知る強みを使いたいのかで選び方が分かれます。私が選んだのは、一般企業の事務職(IT企業の事務職兼カスタマーサポート)でした。
大学職員は募集の時期が大学ごとに決まっているので、一般企業の事務職と並行して探すと、動き出しの時期を選びやすくなります。

大学職員や教育系企業は教育委員会の経験が通じやすい
大学職員は、学校を支える事務、予算、施設、学生対応という仕事の構造が教育委員会の仕事と近い職種です。公務員の経験を大学職員の仕事に結びつける考え方は、別の記事で詳しく書いています。
(関連記事)公務員の経験を大学職員の仕事に結び付けて考える
教育系企業も、教育の経験を活かす行き先としてよく挙げられます。教育委員会の経験に近いのは、学校や教育委員会を顧客にする事業の側です。
学校向けサービスの導入支援や、学校からの問い合わせに答える仕事なら、教育委員会の手続きや意思決定の流れを知っていることを説明の材料にできます。私は教育業界には進んでいないので、これは仕事の構造の近さからの見立てです。
一般企業の事務職は種類を分けてから応募先を選ぶ
一般企業の事務職は、企画・管理系、顧客対応系、労務・人事系のように、種類によって求められる動きが違います。対応表と結びつけると、予算要求は企画・管理系に、就学・学務は顧客対応系に近い仕事です。
教職員の人事事務は、労務・人事系に近い仕事です。
自治体向けに事業を行う企業という第3の行き先
公的機関を相手に事業を行う企業も、公務員の転職先として挙げられることがあります。教育委員会事務局で予算や学校との調整を担当した人は、自治体の意思決定や学校側の動きを理解していることを説明の材料にできます。
自治体や学校向けのサービスを扱う企業では、この知識が営業や導入支援で使われることがあります。
ただし「元公務員だから売れる」わけではなく、成果で評価される仕事なので、向き不向きは別に考えます。在職中に知った情報を持ち出さないことも前提です。
3つの行き先を並べると、次のようになります。
| 行き先 | 教育委員会の経験で書ける点 | 知っておく点 |
|---|---|---|
| 大学職員・教育系企業 | 学校を支える事務と予算、学校を相手にした動き | 募集の時期は大学ごとに確かめる |
| 一般企業の事務職 | 予算要求、顧客対応、文書の管理 | 年収が下がる可能性も含め、求人票で確かめる |
| 自治体向けに事業を行う企業 | 教育委員会や学校を相手にした経験、自治体の意思決定の知識 | 営業や導入支援として募集されている例がある |
教育委員会から転職したときの年収と退職時期の見方
応募に進む前に、年収と退職時期の2つで「それでも動くか」を判断しておきます。年収は下がる可能性を見込み、転職活動を始める前に家族へ数字を見せておくと、後で揉めにくくなります。
私も転職活動を始める前に、下がる見込みの数字を妻に見せてから動きました。退職時期は年度末だけに固定せず、転職先の入社時期と、引き継ぎに必要な期間から決めます。
教育委員会の仕事には年度の周期がありますが、それだけを理由に転職の時期を先送りする必要はありません。
年収が下がる可能性を数字で確かめ家族と共有する
私の場合、残業代込みで約550万円だった年収は、1社目で約350万円になりました。
家族に見せるときは、今の年収、求人票の想定年収、その差額を並べておくと話が具体的になります。
公務員から転職すると給料が下がりやすい理由は、教育委員会に限らない公務員全体の話として別の記事で整理しています。行き先ごとの年収の幅は、求人票の給与欄と厚生労働省の賃金構造基本統計調査で確かめます。
(関連記事)公務員転職で給料が下がりやすい3つの構造的な理由
年度途中の退職は入社時期に合わせて決める
私は2022年5月に、年度の途中で市役所を退職しました。転職先の入社時期に合わせたためです。
民間の入社時期は求人ごとに決まるので、年度末に合わせようとすると、内定の時期が限られてしまいます。退職日が決まったら、引き継ぎ資料を仕上げる日を先に決め、そこから逆算して段取りを組みます。
職務経歴書で教育委員会の経験を伝える書き方
職務経歴書では、部署名と制度の説明に字数を使わず、対応表の業務名と数字で書きます。民間の採用担当は、教育長や教育委員、県費負担教職員といった制度を知らないことが多いので、知らなくても評価できる書き方にします。
「教育委員会総務課で予算要求を担当」ではなく、「部門予算の要求資料を作成し、財政部局の査定に向けて根拠を整理」のように書きます。この書き方の考え方は、公務員の職務経歴書を扱った記事でも詳しく書いています。
面接でも、教育委員会の仕組みの説明より、自分が何をしたかに時間を使います。聞かれたら1文で答えて、自分の動きの話に戻ります。
予算要求資料の作成を業務名と数字に分解する
予算要求資料の作成は、次の5つに分解すると職務経歴書に書きやすくなります。
- 要求の対象:何の事業や費目の予算か
- 根拠の組み立て:積算の根拠、前年との差、必要性の説明
- 提出先と期限:財政部局の査定の日程
- 結果:認められたか、減額か、次年度送りか(自分の実績で書く)
- 再現性:民間なら部門予算の起案や経営企画への説明に当たる
教育委員会のほかの仕事も、同じ型で分解できます。書類の型と見本は、別の記事にまとめています。
(関連記事)公務員特有の3つの壁を越える書き方の実例
私自身は転職活動でビズリーチ・Green・マイナビ・リクルートエージェントに登録していましたが、下で紹介するサービスは利用していません。
対応表ができたら、職務経歴書の形に落としてみる
教育委員会の仕事を民間の業務名に置き換えても、職務経歴書の形にしてみるまで、どこが薄いかは見えてきません。応募する前に一度、書類として仕上げておくと、数字の書き漏れや説明不足に気づけます。
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部署名ではなく業務名で書き制度説明に字数を使わない
教育委員会の経験を書くときは、次の3つを原則にします。1つ目は、「教育長」「県費負担教職員」「指導主事」などの制度の言葉を、書類では1行の注記か言い換えに留めることです。
2つ目は、学校や都道府県との関係を、対象の数や担当の範囲とともに説明することです。3つ目は、自分の判断や工夫、その結果が分かる形で書くことです。
資格を取ってから動くべきかと迷う人もいますが、私は資格を取らずに応募しました。資格より先に、今ある経験をどう書くかを固めるほうが、動き出しは早くなります。
在職中に求人を探して転職活動を進める手順
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(関連記事)公務員ならではの5つの軸で比較する
まとめ|辞める前に異動と対応表を確かめる
教育委員会総務課で予算要求資料を作った私から見ても、教育委員会事務局の行政職員は民間への転職を目指せます。ただし辞める前に、つらさの根っこが教育委員会にあるのか市役所全体にあるのかを分け、異動で離れる道と比べます。
民間へ出るなら、対応表の業務名を使い、部署名と制度の説明に字数を使わずに書きます。行き先は、大学職員・教育系企業、一般企業の事務職、自治体向けの企業の3方向です。
年収は下がる可能性を見込んで家族と共有し、退職時期は入社時期に合わせます。
まず自分のつらさの根っこを仕分け、民間を選ぶなら教育委員会の仕事を対応表の業務名に置き換えるところから始めてください。


