朝、庁舎に入ると胃が重くなる。決裁を回すたびに上司の機嫌をうかがう。
市民の怒鳴り声が耳に残って眠れない。このページにたどり着いたあなたは、おそらくそうした毎日を何年か続けてきたのだと思います。
結論から言えば、公務員の人間関係で限界を感じたなら、転職は十分に合理的な選択肢です。ただし「逃げる」という動機だけで進めると、私のように1社目で6ヶ月で挫折します。大事なのは、自分が何に消耗しているのかを分解し、その消耗源が弱い環境に移る、という「環境の再設計」として捉えることです。
私は大阪府の市役所で15年働き、2回転職しました。1社目はIT企業の事務職で6ヶ月で退職、2社目はWebマーケターとして今も在宅で働いています。
公的統計で裏づけられた公務員の人間関係の構造問題、辞める前にやるべきこと、民間の人間関係の実際、消耗タイプ別に向いている転職先、そして在宅勤務という第3の選択肢まで、私が回り道しながら学んだことを順にお話しします。
公務員の人間関係がつらいのは、個人の性格ではなく構造の問題です
結論から言うと、公務員の人間関係が重く感じられる背景には、働く人の性格とは別に5つの構造的な要因が横たわっています。自分を責める前に、この構造を直視することから始めたほうが、判断を誤りません。
総務省の「令和4年度 総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会報告書」(地方公務員災害補償基金・一般財団法人 地方公務員安全衛生推進協会、令和5年3月公表)によると、地方公務員のメンタルヘルス不調の原因として「職場の対人関係(上司、同僚、部下)」を挙げた団体が60.7%で1位、「業務内容(困難事案)」の42.8%を大きく上回っているとされています。つまり、公務員のメンタル不調の一番の引き金は、業務量や業務難易度そのものではなく、職場の人間関係です。
私自身、15年間の市役所勤務で、人間関係を理由に何度も体調を崩しかけました。その経験と上記の公的調査を重ねたとき、公務員の人間関係に以下の5つの構造問題があると整理できました。
理由1:人事異動が2〜3年周期で、人間関係が常に不安定
多くの自治体で2〜3年を目安に人事異動があり、上司も同僚も定期的に入れ替わります。せっかく関係性を築いても、翌年には全く違う顔ぶれと仕事をすることになります。
一見すると「合わない人と離れられるチャンス」に見えますが、実際には逆で、「安定した信頼関係を築ききる前に壊れる」ことのほうが多い印象です。私も保険年金課から総務課に異動した年、前任者から引き継いだ案件で新しい上司と衝突し、半年以上関係修復に神経を使いました。
民間でいう「プロジェクトが終わったらチームが解散する」とは異なり、人事異動は本人の意思と無関係に強制的に起こる性質があるのです。
理由2:前例主義と決裁制度が、上司の機嫌に成果を依存させる
公務員の仕事の多くは「前例踏襲」と「合議決裁」で進みます。稟議書のハンコリレーと呼ばれる文化が、いまだ多くの自治体で残っているとされています。
この構造のもとでは、いくら筋の通った起案を書いても、係長・課長補佐・課長・部長のどこかで誰か1人がネガティブな反応を示すと、半日かけて修正の説明に回らざるを得ません。上司の機嫌や性格、その日の体調までが成果に直結しやすい環境です。
私のケースでも、同じ起案が前課長のときは即決だったのに、後任の課長になった途端に3度差し戻された経験があります。人間関係が業務品質と直結しすぎるのが、公務員の決裁文化の重さです。
理由3:配属ガチャで、部署ごとに文化が激変する
公務員は職種単位で採用されることが少なく、行政職として採用されたあと、福祉、税務、都市計画、教育、議会事務局など全く性質の違う部署に配属されます。
部署ごとに文化・忙しさ・人間関係の色合いは大きく異なります。窓口部署はクレーム対応が日常ですし、企画系は夜遅くまで議会対応や首長ブリーフィングに追われることもあるとされています。
私も保険年金課(窓口系で市民対応が多い)、総務課(議会対応)、教育委員会総務課と渡り歩きましたが、それぞれ求められるコミュニケーションの型が全く違い、異動直後の半年はいつも人間関係の立て直しに疲弊したものです。
理由4:議員・市民対応という外部ストレスが慢性化する
自治体職員にとって、上司や同僚との関係に加え、議員・首長・市民という外部ステークホルダーとの関係が恒常的に存在します。議員からの問合せには期限付きで即応を求められることが多く、市民からのクレームは理不尽なものも含めて窓口で直接受けざるを得ないのが実情です。
厚生労働省の職場のハラスメント実態調査でも、カスタマーハラスメントを受けた割合は顧客・住民対応を行う職種で相対的に高い傾向があるとされています。私の場合、窓口に立つ日のあとは決まって肩と首がガチガチになっていました。
外部と内部の板挟みが、人間関係ストレスを大きくする構造になっています。
理由5:地域コミュニティと職場が近く、逃げ場が少ない
地方自治体では、職員が市内在住であるケースが多く、プライベートの地域活動(PTA、町内会、消防団など)で同僚や上司と顔を合わせることが珍しくありません。職場のストレスを家庭に持ち帰らないようにしようとしても、週末の自治会で同じ人と会ってしまう、というケースが発生します。
私の地元でも、子どもの運動会で隣に座っていたのが同じ課の課長、ということがありました。このような「物理的に逃げ場が狭い」構造も、人間関係の消耗を深めます。
このように、公務員の人間関係のつらさは、個人の人付き合いの下手さではなく、人事制度・決裁文化・配属・外部対応・地域密着という5つの構造が重なっている結果です。まずはこの事実を直視することが、次の一歩を誤らないための前提になります。
転職を決める前に、組織内でできる打ち手を試し尽くす
結論として、人間関係で疲弊していても、いきなり退職届に向かう前に、異動申請・メンタルヘルス制度・ハラスメント窓口など、組織内で打てる手を一通り確認することをおすすめします。私自身、15年のうち2度異動申請を出し、1度は通り1度は通らなかった経験があり、動く価値はあります。
ステップ1:悩みを「上司型/同僚型/クレーム型/空気型」に分類する
自分が何に消耗しているかが曖昧なまま動くと、転職先でも同じ消耗を繰り返します。まずは以下の4タイプのどれに近いか、ノートに書き出してみてください。
- 上司型:特定の上司の態度・詰め方で消耗している
- 同僚型:特定の同僚・派閥との距離感で消耗している
- クレーム型:市民・議員対応の理不尽さで消耗している
- 空気型:飲み会・同調圧力・職場全体の雰囲気で消耗している
タイプごとに対処の優先順位も、向いている転職先も変わります。この分類は、転職先を選ぶ際の重要な判断軸になります。
ステップ2:産業医面談と正式な人事ヒアリングで異動希望を伝える
多くの自治体では年1回、人事課から異動希望ヒアリングの機会が用意されているとされています。上司型・同僚型の悩みであれば、異動1回で状況が大きく変わる可能性があります。
また、並行して産業医との面談を予約することもおすすめします。業務起因のストレスが強いと産業医が判断した場合、人事課への申し送りが公式ルートで行われることがあります。
私が1度目の異動申請を通したときは、ヒアリングシートに「現職場の業務内容は理解しており責任を果たしているが、本人の健康管理の観点から環境変更を希望する」と明示しました。「人間関係が嫌」と直接書くよりも、「健康管理」「業務の幅を広げる」という表現のほうが通りやすい傾向にあるようです。
ただし、異動先が希望通りになる保証はなく、場合によっては別のガチャを引くリスクも残ります。
ステップ3:メンタルクリニック受診と休職制度の把握
悩みが身体症状(不眠、食欲不振、動悸、出勤前の吐き気など)に出ている場合、まずは心療内科・メンタルクリニックの受診を検討してください。地方公務員には休職制度があり、一般に病気休暇・休職を合わせて最長3年程度の長期離脱が認められるケースが多いとされていますが、詳細は所属自治体の条例を必ず確認する必要があります。
「休職は出世に響くのでは」という声をよく聞きますが、出世のために身体を壊してしまっては本末転倒です。私の同僚にも、休職を取って半年後に別部署で復職し、その後民間に転職した方がいました。
休職は転職までの時間を稼ぐ制度としても機能します。
ステップ4:ハラスメント窓口・人事委員会・労組を活用する
パワハラや明確な理不尽が原因の場合は、自治体のハラスメント相談窓口、人事委員会、労組(職員組合)という公式ルートがあります。総務省も各自治体に相談窓口設置を促しており、近年は制度が整ってきているとされています。
これらの窓口は、相談しただけで相手に告げ口される、という仕組みにはなっていません。相談記録を残すこと自体が、のちのち転職時に「退職理由の証拠」として機能する場面もあります。
私の場合、使うことはありませんでしたが、同じ課にパワハラ上司がついたときに相談記録を取っていた先輩が、のちに配置転換を勝ち取っていました。
組織内の打ち手を尽くしても状況が変わらない、尽くす気力すら残っていない、と判断できたときに、初めて転職活動が現実的な選択肢になります。なお、組織内の打ち手と並行して在職中から転職活動を始める場合、公務員特有の法的論点(地方公務員法の営利企業従事制限など)もあります。
(関連記事)公務員の転職活動は禁止?在職中に動いた元市役所職員の実体験 も合わせて確認しておくと安心です。
「民間に転職すれば人間関係は楽になる」は半分本当で、半分誤解です
結論を先に言うと、民間に転職すれば人間関係の総量は減る可能性が高いものの、「民間=ドライで楽」という単純化は危険です。民間企業の人間関係は業種・職種・規模・上司個人で大きく変わります。
私は1社目(IT企業の事務職)でそれを痛いほど経験しました。
人間関係だけでなく、働き方や評価軸そのものが公務員と民間で大きく違うことは、私自身も痛感したポイントです。人間関係以外の文化差については、(関連記事)公務員と民間のギャップとは|元市役所15年の私が感じた10項目と準備 でも詳しく整理しています。
私が1社目で6ヶ月で辞めた、民間の人間関係の誤算
最初の転職先は、地方のIT企業で事務職兼カスタマーサポートでした。「公務員より自由で成果主義でフラット」というイメージだけで入社しましたが、実際にはむしろ逆でした。
- 少人数のためサポートが薄い:市役所では先輩や係長が手取り足取り教えてくれる文化でしたが、その会社では「業界経験者扱い」で放置されました
- 年功序列はなくても序列は別の形で存在:「在籍年数=顧客知識」で暗黙の序列ができており、後から入った私は常に情報ビハインド状態でした
- 成果の定義が不明瞭:「がんばっている」か否かを決裁でなく社長の印象で決める構造で、公務員時代より属人的でした
6ヶ月で体重が5kg落ち、退職を決めました。このとき学んだのは、民間だからフラットでドライという一般化は通用しない、ということです。
民間と公務員で決定的に違う5つの人間関係の性質
とはいえ、2社目(Webマーケターの中堅企業)に移ってからは、人間関係の消耗は格段に減りました。民間と公務員で人間関係の性質が違うポイントを整理すると次の5点です。
- フラット度:肩書きより役割で呼び合う企業が増えており、「課長」「部長」と呼ぶ文化は相対的に薄いとされる
- 成果の可視化:数字で評価する仕組みがあり、上司の感情よりKPIが基準になる職場が多い
- プロジェクト制:メンバー構成が1案件ごとに変わり、固定した派閥が作りにくい
- 1on1文化:上司と1対1で話す時間が制度化されている企業が増えており、密室の詰め方が起きにくい
- 異動の本人希望制:ジョブ型・社内公募制の導入が拡大しており、希望しない異動を押しつけられる頻度は低めの傾向
これらは「全ての民間企業がそう」ではなく、「そういう企業が公務員より多い」という意味で理解してください。
逆に言えば、フラットでも成果主義でもない古い民間企業に当たると、公務員よりつらい可能性があります。
業種で人間関係の性質は大きく違う
同じ「民間」でも、業種によって人間関係の色合いは別物です。
- 営業職:社外ストレスは残るが、社内は成果順で序列が決まり、属人ストレスは減りやすい傾向
- IT(開発系):ロジックで動く文化が強く、議論はドライだが人格攻撃は少ないとされる
- コンサル:徹夜文化が残る企業もあり、上司との距離も近い。ハードだが学びは大きい
- 製造・メーカー:組織階層が残る企業が多く、公務員に近い組織文化を持つ場合もある
- スタートアップ:少人数で密な人間関係になり、合えば天国、合わなければ公務員以上にきつい
自分が「上司との距離」「顧客との距離」「同僚との密度」のどれが一番苦手かによって、避けるべき業種・狙うべき業種が変わってきます。
消耗タイプ別に、向いている転職先の地図を持つ
結論として、さきほど分類した「上司型/同僚型/クレーム型/空気型」によって、向いている転職先は大きく異なります。「民間ならどこでも」ではなく、消耗源から逆算して選ぶのが転職失敗を避ける近道です。
以下に、4タイプ別のマトリクスを整理します。
タイプA:上司に詰められて消耗した人
サイン:特定の上司の物言いで眠れなくなる/決裁で心臓がバクバクする/朝、庁舎で上司の車を見ると気が沈む
向いている転職先:
- IT企業・SaaS企業(1on1文化が普及しており、詰めるより育てる色が強い企業が多いとされる)
- 外資系企業(人事評価が本人との合意ベースで、上司は評価者というより役割分担の一機能になりやすい)
- フルリモートの会社(Slack・Teamsベースで、チャンネルの性質によっては上司との距離を設計できる)
避けるべき転職先:
- 昔ながらの営業会社(体育会的な詰め文化が残る企業が一部にあるとされる)
- 少人数のワンマン社長企業
逆質問の例:「1on1は月に何回ありますか」「評価は上司1名で決まりますか、複数名で決まりますか」
タイプB:同僚との距離感・派閥で消耗した人
サイン:ランチ同行の気遣いで疲れる/陰口文化がしんどい/特定グループに入らないと情報が回らない空気が苦しい
向いている転職先:
- プロジェクト制で人が入れ替わる業態(コンサル、SIer、制作会社)
- 在宅・リモートが基本の会社(物理的に同僚との密度を下げられる)
- 社員数が比較的多く、派閥が分散している中堅以上の企業
避けるべき転職先:
- 社員20人以下のスタートアップ(物理的距離が近く派閥から逃げにくい)
- 古参社員が固定している中小企業
逆質問の例:「社員の平均在籍年数はどのくらいですか」「ランチは各自自由ですか」
タイプC:市民・議員対応のクレームで消耗した人
サイン:電話が鳴ると心拍数が上がる/怒鳴り声を思い出す/対面対応の日は前夜から眠れない
向いている転職先:
- BtoB営業(法人相手で、顧客もプロフェッショナル対プロフェッショナルのコミュニケーションが基本)
- バックオフィス職(経理、法務、情シス、総務など内部支援職種)
- ITエンジニア(顧客対応が少なく、成果物で評価される職種が多い)
避けるべき転職先:
- BtoCの窓口職(公務員と同じ消耗源が再現される)
- 顧客電話対応中心のコールセンター
逆質問の例:「個人顧客からの電話対応は業務に含まれますか」「カスタマーハラスメント発生時のエスカレーションルールはありますか」
タイプD:飲み会・同調圧力・空気で消耗した人
サイン:歓送迎会が憂鬱/ノミニケーション文化が耐えられない/「みんなやっているから」の圧がしんどい
向いている転職先:
- 外資系企業(会食・飲み会文化が相対的に薄い傾向とされる)
- フルリモートの会社(物理的に飲み会自体が発生しづらい)
- エンジニア・クリエイター中心企業(個人裁量が大きく、協調より成果中心の文化が多い傾向)
避けるべき転職先:
- 古い商社・製造業(社内イベント・接待文化が色濃く残る企業がある)
- 地方の中小企業(地域コミュニティ色が強く、公務員時代と似た構造になる可能性)
逆質問の例:「飲み会や社内イベントの頻度はどのくらいですか」「参加は任意ですか」
複数タイプを併発している場合の優先順位
現実には「上司型と空気型の両方が当てはまる」「クレーム型が根っこだが同僚型も重なる」というケースが珍しくありません。その場合は、以下の手順で優先順位を決めることをおすすめします。
- 過去1ヶ月でもっとも頻繁に「つらい」と感じた場面を具体的に書き出す
- その場面で発生している消耗の種類を1つだけ特定する
- その1タイプを軸に転職先を絞り込み、他のタイプは「避けるべき転職先」のフィルタとして併用する
完璧に全タイプを避けられる職場は存在しません。最大の消耗源を1つ決めて対処することが、現実的な絞り込みの出発点になります。
このマトリクスは「この業種を選べば100%解決」というものではありません。同じ業種の中でも企業ごとに文化は違います。
タイプ分類は「どの業種を優先して見て、どの業種を避けるか」の絞り込みツールとして使ってください。業種単位での詳しい適性判断は、(関連記事)悩める30代へ|市役所からの転職におすすめの業界と失敗しない戦略 も参考になります。
在宅勤務という、人間関係ストレスを根本から減らす第3の選択肢
結論を先に言うと、人間関係の悩みの根源には「物理的距離の近さ」があります。在宅勤務中心の職場に移ることは、人間関係の量そのものを減らす、という構造的な解決策になり得ます。
私自身、現在は在宅勤務のWebマーケター職で、人間関係ストレスがほぼゼロに近い状態で働けています。
在宅勤務で、人間関係の何が変わったか
2社目のWebマーケター会社に入社した時点では、オフィス週5日出社が基本でした。その後、会社がフルリモートに移行し、私の出社頻度は月1回程度まで減りました。
この変化で、以下のような変化がありました。
- 朝の通勤で気持ちを作る必要がなくなった:上司の顔を見る前にコーヒーを淹れる時間が確保できる
- 相談はテキストベースになった:Slackの投稿は反射で書けないので、感情的な衝突が激減した
- 偶発的な雑談で疲れることがなくなった:雑談は楽しいものだけに絞れる
- 物理的空間を同僚と共有しない:相手の表情・ため息・舌打ちから受ける刺激が遮断される
もちろん個人差はありますが、「対人距離の設計」を自分の手に戻せる感覚は、公務員時代には存在しないものでした。
在宅勤務に辿り着くまでの、現実的な2ステップ
いきなり在宅勤務の会社に転職できるとは限りません。未経験の業種・職種でフルリモート求人を出している企業は、相対的に少数派です。
私が辿ったのは以下のルートです。
- ステップ1:週5日出社の民間企業でスキルを作る(私の場合は1社目のIT事務職を経て、2社目でWebマーケターになるまで合計約3年)
- ステップ2:社内でリモート実績を積むか、リモート前提の転職に切り替える
Webマーケティング、ITエンジニア、ライター、編集、デザイナー、コーポレートIT、人事(一部)など、リモートと親和性の高い職種に絞って転職活動を設計すると、在宅への道筋が見えやすくなります。私自身がどんな手順で在宅勤務に辿り着いたかの詳細は、(関連記事)公務員から転職してリモートワーク|元市役所15年が在宅に辿り着いた道 にまとめています。
在宅勤務の落とし穴を先に知っておく
在宅勤務にもデメリットはあります。
- 孤独感:雑談が減る分、週に数回は意識的にオンライン雑談会や1on1をセットしないと心がしぼむ
- 自己管理が必要:始業・終業のメリハリが自分で作れないと、逆に長時間労働になる
- 評価の難しさ:オフィスで「がんばって見える」時間は評価に乗らず、成果物の質そのもので評価される
在宅勤務は人間関係ストレスを減らす強力な選択肢ですが、孤独や自己管理の問題への耐性がある人に向きます。「公務員時代、自席で集中して仕事を進められた」「個人の進捗管理が好きだった」というタイプであれば、合う可能性が高いと言えます。
「人間関係がよい会社」を求人票でなく、面接と裏取りで見抜く
結論として、人間関係で失敗しない転職のためには、求人票の待遇欄ではなく「面接での逆質問・口コミサイト・離職率・組織図」の4点で裏取りすることが重要です。私は2回目の転職活動でこの4点を徹底してから、ミスマッチを避けられました。
ステップ1:面接で効く逆質問3つ
面接の終盤で必ず聞かれる「何か質問はありますか」は、人間関係の健全性を探る最大のチャンスです。以下の3つは、私が2社目を選ぶときに実際に使った逆質問です。
- 「1on1ミーティングは、どのくらいの頻度で行われていますか」
→ 月2回以上1on1がある企業は、上司と部下の対話が制度化されており、密室で詰める文化が起きづらい傾向にあります
- 「評価は、どなたが関与する仕組みですか」
→ 直属上司1人で評価が決まる企業は、上司ガチャの影響が強くなります。複数名(上司+斜め上の上司+人事)で評価する仕組みの企業を優先しました
- 「過去3年間の離職理由を、差し支えなければ教えていただけますか」
→ 答えを濁す企業は要注意です。具体的に「ライフイベントが多かった」「キャリアチェンジが多かった」など答えられる企業は、退職時のコミュニケーションも健全だと推定できます
ステップ2:口コミサイトを正しく読む
OpenWork、エンライトハウス、転職会議などの口コミサイトは、人間関係の実態を把握するのに有用です。ただし読み方にコツがあります。
- 極端な高評価・低評価は参考程度:企業側の書き込み対策や、退職者の怒りによるバイアスが混じります
- 中央値のコメントに注目:点数が中程度で、「良い点・悪い点」を両方書いているレビューが実態に近い傾向にあります
- 退職理由の記述パターンを見る:「人間関係」「上司の詰め」「派閥」というキーワードが複数レビューで繰り返される企業は注意が必要です
ステップ3:エージェントへの情報ヒアリング
転職エージェントは、求人企業の人事・採用担当と直接やり取りしています。以下の項目は、担当エージェントに直接聞くと、求人票には載らない情報が得られる可能性があります。
- 過去1〜2年の離職率(概算でも)
- 配属予定部署の直属上司の年齢・在籍年数
- 評価制度の運用実態(1on1頻度・評価者数)
- ハラスメント事案が過去に報告されたことがあるか
すべての答えが得られるわけではありませんが、聞かない人と聞く人では情報量が確実に違います。
私は2社目のオファー前に、担当エージェントから「配属予定の上司は在籍5年のマネージャーで、過去退職者から評価はおおむね高い」という情報をもらい、最終判断の後押しになりました。
ステップ4:内定後のオファー面談で、現場社員との接点を要求する
内定が出たあと、オファー面談(条件面談)で「配属予定の上司や同僚と、入社前に一度話す機会が欲しい」と依頼することをおすすめします。まっとうな会社であれば、ほぼ応じてもらえるはずです。
逆に、この依頼を理由なく断る企業は、入社後の情報開示にも消極的な可能性が高く、選考を見送る判断材料に使えます。
この接点で確認すべきは、労働条件ではなく以下のような人間関係に関する項目です。
- 上司本人の自己紹介と評価スタンス
- チームの雰囲気(何人で、どんな経歴か、どんなコミュニケーションを取っているか)
- 入社後の最初の90日で、どんなサポートが用意されているか
この3点を入社前に把握できるかどうかで、入社直後の適応スピードが大きく変わります。人間関係が健全な会社を見抜くための包括的なチェック項目は、(関連記事)公務員が転職でホワイト企業を見抜く方法|元市役所15年の私が使った9項目チェックリスト にも9項目でまとめていますので、合わせて確認してみてください。
まとめ:「人間関係で辞めるのは逃げ」ではなく「環境の再設計」と捉える
ここまで読んでくださったあなたには、「人間関係で消耗しているのは自分が弱いからではなく、公務員という職場の構造に5つの問題があるからだ」という事実を、一度受け取っていただきたいと思います。
その上で、組織内の打ち手を一巡させ、それでも変わらなければ、自分の消耗タイプに合った環境へ移す、という順序で考えると、判断の精度が上がります。
本記事の要点を5つに整理します。
- 公務員の人間関係のつらさは、人事異動・前例主義・配属ガチャ・外部対応・地域密着という5つの構造的要因による。総務省調査でも対人関係が休職原因の60.7%で1位とされている
- 退職を決める前に、異動申請・産業医面談・メンタルヘルス制度・ハラスメント窓口など、組織内の打ち手を一通り試す価値がある
- 民間に転職すれば人間関係の総量は減る傾向があるが、「民間=ドライで楽」は誤解で、業種・職種・企業ごとに大きく違う
- 消耗タイプ(上司型/同僚型/クレーム型/空気型)を先に自己分析し、そこから逆算して転職先を選ぶと失敗しづらい
- 在宅勤務への転職は、対人距離を自分で設計できる第3の選択肢として機能する。面接の逆質問、口コミ、エージェント情報、オファー面談での現場接点で、人間関係の健全性を事前に裏取りすることが重要
なお、人間関係を軸にした転職は、必ずしも年収ダウンを意味しません。私自身も1社目では年収が200万円ダウンしましたが、その過程と、年収面で失敗しないための考え方は、(関連記事)公務員転職で給料は下がる?年収200万ダウンした私が正直に解説する に詳しくまとめています。
消耗タイプに合った業種・職種であれば、市役所時代と同水準・それ以上の年収を目指すルートも十分に現実的です。一人で進められないと感じた場合は、複数の転職エージェントに登録し、自分の市場価値と職種候補を客観的に整理してもらうのが、次の一歩として効率的です。
人間関係を理由に転職を考えるのは、逃げではなく環境の再設計です。まずはあなたの消耗タイプを1つ特定することから始めてみてください。そこから、次の一手は自ずと見えてきます。
(出典)総務省:令和4年度 総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会報告書(令和5年3月公表)


