「公務員を辞めるなんて、もったいない」
「家族もいるのに、どうしてそんなリスクを冒すんだ」
もしあなたが今、周囲に転職の相談をしたとしたら、10人中9人がこう言って引き止めるでしょう。
親御さんなら泣いて反対するかもしれませんし、奥さまなら将来の不安から喧嘩になってしまうかもしれません。
その反応は、ある意味で正しいです。公務員という最強の「安定カード」を捨てるリスクは、決して小さくありません。
ですが、この記事にたどり着いたあなたは、心のどこかでこう感じているはずです。
「このまま定年まで、この閉塞感の中で働き続けることの方が、よっぽど恐ろしい」と。
私も35歳の時、あなたと全く同じ場所に立っていました。
新卒から市役所の職員として15年以上。昇任試験もパスし、妻と3人の子ども、そして35年ローンで買ったマイホームがある状態での、民間企業への転職。
周囲からは不安の声ばかりでした。
それでも私が一歩踏み出したのは、「自分の市場価値が分からないまま、組織にしがみついて生きる恐怖」に押しつぶされそうだったからです。
ここに書くのは、ただの精神論や「夢は追うべき」といった無責任な話ではありません。
元市役所職員であり、現在はIT企業で働く私が、「30代半ば・子持ち・未経験」という公務員が、いかにして年収と家族を守りながら、キャリアの「生存戦略」を描くか。私がやってきたことを、包み隠さずお話しします。
結論から申し上げます。私は転職して「後悔した瞬間」は何度もありました。
ですが、トータルでは「正解」でした。現在はWebマーケティング職として完全在宅で働き、家族との時間も増えて幸せな生活を送っています。
ただし、「何も武器を持たずに飛び出した最初の1年目」は地獄を見ました。「公務員を辞めたら人生終わり」ではありませんが、「公務員のままのOS」で民間に行くと、とても苦労します。
15年以上勤務の私が味わった「後悔」のリアルと、それを乗り越えた「生存戦略」を、あなたにお伝えします。
公務員を辞めたら元の身分へ自動的には戻れない
公務員を自己都合で退職すると、原則として以前の身分へ自動的に戻る仕組みではありません。一方で、自治体や国の採用試験を受け直す、経験者採用へ応募するなど、新たな選考を経て公務員を目指す道はあります。
「戻れる可能性があること」と「元の職場へそのまま復帰できること」は別です。年齢、職歴、募集職種、欠格条項などの条件は募集先ごとに確認してください。
| 選択肢 | 考え方 | 確認先 |
|---|---|---|
| 同じ自治体の採用試験 | 新たな応募者として選考を受ける | 自治体の採用案内・人事担当 |
| 経験者採用 | 民間経験や前職経験を応募要件と照合する | 当年度の募集要項 |
| 別の自治体・国の採用 | 年齢や職種が合う試験を探す | 各採用機関の公式情報 |
| 復職・再任用 | 対象者と制度目的が限られるため個別確認が必要 | 所属先の条例・規則・人事担当 |
再受験や経験者採用は募集要項から逆算する
最初に確認するのは、受験年齢、必要な職務経験、採用予定日、試験内容です。以前勤務していた事実だけで選考が免除されるとは限らず、同じ自治体でも年度によって募集職種や要件が変わります。
退職後に戻る可能性を残したいなら、退職前から候補となる採用機関の公式ページを確認します。口頭のうわさではなく、最新の募集要項を基準にしてください。
出戻りを保険にせず転職条件を先に固める
戻る道があると考えることは安心材料になりますが、それを前提に転職先を選ぶと準備が曖昧になります。仕事内容、年収、勤務地、試用期間、家計への影響を内定前後で確認する方が現実的です。
転職後のよかった変化と苦労を比較したい方は、公務員から転職してよかった点も参考にしてください。
迷う段階では退職せず相談と情報収集を進める
戻れるかを調べる前に、今の経歴で外にどんな求人があるかを見ておく
出戻りを保険にすると、転職先の条件確認が甘くなります。私は市場価値を知らないまま応募先を決め、1社目を6ヶ月で辞めました。転職サイトに登録はしていたものの、届いた反応を読み解いて応募先の判断に使いきれなかったのです。そこから学んだのは、外の条件は退職を決める前のほうが落ち着いて確認できるということでした。
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それでも私が「安定」を捨てて正解だったと言い切れる理由
ここまで散々、脅かすようなことを書いてきました。
読んでいて「やっぱり辞めるのはやめようかな」と思ったかもしれません。ですが、それでも私は胸を張って言えます。
「転職して本当によかった」と。その理由をお話しします。
「役職定年」と「組織依存」の恐怖からの解放
もし私が市役所に残っていたらどうなっていたでしょうか。
確かに給料は安定していたでしょう。ですが、50代になれば「役職定年」が待っています。
給料はガクンと下がり、かつての部下が上司になり、やりがいのない閑職に追いやられる。再任用制度で65歳まで働いたとしても、それは「組織にしがみつく」生き方です。
役所に残る最大のリスクは、「40代・50代で役所しか知らないおじさん」になること、つまり「茹でガエル」になることです。
「この組織から放り出されたら、自分は何もできない」という恐怖を抱えながら、理不尽な異動や人間関係に耐え続けること。想像しただけで、それは精神的にとてもキツいものです。
ですが、今の私には、その恐怖がありません。
Webマーケティングというスキルを身につけ、企業の利益に直接貢献できる力を手に入れました。極端な話、今の会社が明日潰れても、PC1台あればどこかの企業で働くことができるし、個人で稼ぐこともできます。
「組織の看板がなくても、自分の足で立っていける」
この「スキル」を手に入れたことによる精神的な安定感は、公務員の形だけの「身分保障」よりも、はるかに強く、私を支えてくれています。
「虚無感」しかなかった世界からの離脱|リモートワークの恩恵
市役所の仕事も尊いものです。ですが、正直に言えば、私にとっては「虚無感」との戦いでした。
頑張って企画を通しても、利益が出るわけではない。どれだけ効率化しても、予算が減らされるだけ。
毎年、同じスケジュールの繰り返し。市民のために働いているのに、飲み会の席では、市役所の職員であることを市民に隠す。
やりがいが無く、肩身の狭い思いをすることが多々ありました。
ですが、今は違います。
自分の仕事が数字となって表れ、会社の売上に直結する。「あなたがいたから成功した」と感謝される。
成果を出せば、それが正当に給与や評価として返ってくる。
「自分の仕事が、誰かの役に立ち、価値を生み出している」という手応えは、働く喜びとなっています。
そして何より、暮らし方が大きく変わりました。
現在は完全在宅勤務です。市役所時代、往復2時間かけて満員電車で通勤していた時間はなくなりました。
2026年度時点では、夕方に年長の長女を保育園へ迎えに行き、子どもをお風呂に入れて、夕食の準備をしておく。
家族みんなで食卓を囲み、「今日はこんなことがあったよ」と笑い合う。
繁忙期には残業もありますが、それでも「家族との時間」は何物にも代えられません。
年収は一時的に下がりましたが、この「家族との時間」と「心の余裕」は、年収数百万円の差が埋まる幸せです。
2回の転職で気づいた「キャリアは一発で決めなくていい」という真実
私は公務員から今のIT企業へ、一発で転職成功したわけではありません。実は、間に1社挟んでいます。
1社目の転職先もIT企業でしたが、正直に言えば「ブラック」に近い労働環境でした。給料は標準でしたが、残業も多く、土日も働きづめだったのです。
ですが、私はそこで必死に「民間の働き方」と「基礎的なWebスキル」を学びました。
公務員としての「丁寧さ」を捨て、「スピード」と「数字」への意識を叩き込みました。その後、その実績をもとに、現在のIT企業へと「ステップアップ転職」をしたのです。
多くの公務員の方は、真面目すぎるあまり「最初の転職ですべて(年収・環境・やりがい)を満たすホワイト企業に行かなければならない」と思い込んで動けなくなっています。
ですが、それは難しいです。未経験の30代公務員に、いきなり高待遇を用意する企業はありません。
「キャリアは一発で決めなくていい」のです。
まずは「民間へのパスポート」を手に入れるための1社目を経験し、そこで「民間人」としての実績を作ってから、本当に行きたかった2社目を目指す。
この「2段階転職」の視点を持てたことが、私が後悔を乗り越えられた一番の理由でした。
(関連記事)公務員から転職してよかったこと・後悔したこと
1社目から何を持ち帰るかが決まらないと、2段階転職は組み立てられない
私は1社目で年収が200万円下がり、半年で辞めていますが、そこで覚えた民間の働き方と基礎的なWebスキルが2社目につながりました。決めるべきなのは行き先の社名ではなく、1社目で何を持ち帰るかです。
30〜40代を対象にしたキャリアコーチングがZaPASSで、事前面談は無料、その先のコーチングは有料という区切りだと案内されています。求人票は出てきません。
事前面談で話したからといって、1社目を決める必要はありません。整理だけして持ち帰っても構いません。
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後悔しないための「公務員脳」脱却&翻訳メソッド
では、具体的にどうすればいいのか。15年以上勤務の公務員が、民間企業に評価され、採用を勝ち取るためにやったことをお話しします。
一番の壁は「スキル不足」ではなく、「伝え方」です。
職務経歴書の「翻訳」ができていないと書類で落ちる
あなたがもし、職務経歴書に次のように書こうとしているなら、今すぐ手を止めてください。
「市民課にて窓口業務を担当」「総務部総務課にて予算決算業務に従事」「選挙事務の運営」これでは100%落ちます。
なぜなら、民間の人事担当者は「起案」「決裁」「議会対応」といった言葉の意味も、その難易度も理解できないからです。
彼らにとってそれは「誰でもできる事務作業」にしか見えません。
必要なのは、あなたの公務員としての経験を、民間のビジネス用語に「翻訳」することです。
15年以上も勤めていれば、あなたは単なる事務処理だけでなく、高度な調整や折衝を行ってきたはずです。それを以下のように変換してください。
【実例Before/After表:公務員経験の翻訳】
| 市役所での業務(Before) | 民間企業へのアピール(翻訳後) | 評価されるスキル |
| 庁内調整・根回し(関係各課への事前説明、合意形成) | ステークホルダーマネジメントプロジェクト推進力 | 利害関係の異なる複数部門の意見を集約し、全体最適解への合意形成を主導する力。WebディレクションやPMで必須。 |
| 要綱作成・法令解釈(ミスの許されない文書作成) | リスク管理能力論理的思考力(ロジカルシンキング) | 法的根拠に基づいた緻密な論理構築と、リスクを最小化するドキュメンテーション能力。管理部門やコンサルで重宝される。 |
| 窓口・クレーム対応(理不尽な市民への対応) | 課題解決型折衝力カスタマーサクセス | 感情的な相手の潜在ニーズを傾聴し、事実に基づき納得解を導き出す交渉力。営業やCS職で即戦力となる。 |
| 補助金申請の審査・事務(膨大な書類処理) | 業務プロセス改善(BPR)オペレーション構築 | 複雑な事務フローを正確に遂行しつつ、ミスが起きない仕組み(マニュアル化等)を整備する力。 |
嘘をつく必要はありません。視点を変えて、言葉を変える。
これが重要です。
「未経験」を「経験あり」に
もう一つ、強力な武器を作る方法があります。それは「個人的な活動(個人開発・副業準備)」です。
公務員法により、在職中の「副業(報酬を得る行為)」は禁止されています。ですが、「報酬を得ない活動」や「学習」は禁止されていません。
もしあなたがWebマーケティングに興味があるなら、今すぐ自分でブログを開設し、SNSを運用してフォロワーを増やしてみてください。
アフィリエイトリンクを貼らなければ(収益化しなければ)、副業規定には抵触しません。
もしプログラミングに興味があるなら、Progateなどの学習サイトでコードを書き、簡単なWebアプリを個人で作ってみてください。
面接で「未経験ですが、やる気はあります」と言う35歳と、「未経験ですが、自分でブログを運営して月間1万PVを集めました(収益化はしていません)」と言う35歳では、面接官がどちらを採用したいかは、考えるまでもありません。
「禁止されているから何もできない」と嘆くのではなく、「報酬が発生しない範囲で実績を作る」という思考を持つこと。これが、30代未経験の壁を突破する鍵です。
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30代・公務員におすすめの「生存ルート」とエージェント選び
最後に、これから戦場に出るあなたへ、具体的な「戦う場所」と「味方の選び方」をお伝えします。
狙い目は「管理部門」か「IT業界の非エンジニア職」
30代半ばから、いきなり「プログラマー(エンジニア)」を目指すのはおすすめしません。技術の習得に時間がかかる上、若い吸収力のあるライバルには勝てないからです。
公務員のキャリアを活かしつつ、将来性のある業界に移るなら、以下の2つのルートがおすすめです。
- ベンチャー・中小企業の管理部門(人事・総務・経理)
- あなたの「法令遵守意識」「文書作成能力」「堅実さ」がそのまま評価されます。特にIPO(上場)を目指しているベンチャーなどでは、規程類の整備ができる人材は喉から手が出るほど欲しい存在です。
- IT業界の非エンジニア職(Webディレクター・カスタマーサクセス・営業)
- 私が選んだのもこのルートです。IT業界は慢性的な人手不足です。技術はエンジニアに任せ、あなたは「顧客との折衝」「スケジュールの管理」「ドキュメント作成」といった、公務員が得意とする「調整業務」で価値を発揮してください。
エージェントは「元公務員」か「管理部門特化」
転職エージェント選びも重要です。CMでよく見る「大手総合型エージェント」に登録するのは必須ですが、あまり期待しすぎないでください。
彼らは効率重視なので、「35歳・公務員・未経験」という条件を見た瞬間、「紹介できる求人はありません(=介護や飲食などの不人気職種ならあります)」と塩対応されるリスクが高いからです。実際、私もその経験があります。
必ず、以下の特徴を持つエージェントやサービスを併用してください。
- 管理部門(事務系)特化型エージェント: 公務員の事務処理能力を正当に評価してくれます。
- 「元公務員」のアドバイザーがいるエージェント: 公務員の苦悩や、スキルの翻訳方法を熟知しています。
- 30代・40代のキャリアチェンジに強いエージェント: ポテンシャルを見てくれます。
エージェントは「担当者との相性」が全てです。あなたの話を親身に聞き、あなたのキャリアを一生懸命「翻訳」して企業に売り込んでくれる担当者に出会えるまで、複数のエージェントに会ってください。
それがあなたの命綱になります。
公務員から転職して後悔する人に共通する3つの特徴
結論から言うと、公務員からの転職で後悔する人には、転職前の準備段階で共通するパターンがあります。逆に言えば、この特徴に当てはまらなければ、後悔のリスクは大きく下げられると私は考えています。
ここでは、私自身が1社目をわずか6ヶ月で辞めた失敗を振り返りながら、後悔しやすい人に共通する3つの傾向を具体的に解説します。読み終える頃には、ご自身が今どのリスクを抱えているのかが見えてくるはずです。
待遇や条件を絞り込めていない人の落とし穴
最も後悔につながりやすいのは、転職先の条件を絞り込めていないケースだと思います。私が1社目を6ヶ月で辞めた一因も、年収200万円ダウンという条件を「とりあえず受け入れてしまった」ことにありました。
年収・勤務地・残業時間などの優先順位を決めずに転職すると、入社後に「こんなはずではなかった」というギャップが生まれやすいものです。何を捨てて何を守るのかを事前に紙に書き出すだけでも、後悔の確率はかなり下げられるはずです。
条件の曖昧さは、そのまま後悔の余地になります。
自分の強みを言語化できていない人の危うさ
次に後悔しやすいのは、自分の強みを言葉にできていない人だと私は感じています。公務員の仕事は幅広い反面、民間の言葉に翻訳しづらく、「自分には何のスキルもない」と思い込みがちです。
しかし実際には、調整力や正確な事務処理能力など、民間でも通用する強みが眠っているケースが多いと考えられます。これを言語化できないまま転職活動を進めると、自分に合わない職種を選んでしまい、後悔につながりやすくなります。
まずは過去の業務を棚卸しし、強みを民間の言葉へ翻訳する作業が欠かせません。
安定という言葉に逃げ込んでいる人の傾向
そして見落とされがちなのが、「安定」という言葉に逃げ込んでしまっている人です。私自身、市役所を辞める直前まで「安定を手放して良いのか」と何度も迷いました。
ただ、安定という言葉を、思考停止の言い訳に使っていないかを疑う視点は重要だと考えています。一般論として、現状維持の安心感だけで残るか辞めるかを決めると、どちらを選んでも「あのとき本当はどうしたかったのか」という後悔が残りやすいと言われています。
安定の中身を具体的に分解して考えることが、後悔を避ける第一歩です。
公務員を辞めて後悔したら戻れるのか(出戻り・再受験のリアル)
結論を先にお伝えすると、公務員を辞めても、再受験や経験者採用という形で「戻る」道は現実的に残されています。ですから、「失敗したら人生終わり」と思い詰める必要はありません。
ただし私は、戻れる保険があるからこそ、かえって転職が中途半端になる危険もあると考えています。ここでは、戻る手段の実態と、それでも私が「戻らない」と腹を括れた理由を、妻に背中を押された当時の体験を交えてお伝えします。
経験者採用・社会人枠で戻るという選択肢
まず知っておきたいのは、一度公務員を辞めても、経験者採用や社会人枠を通じて戻る道が用意されているという事実です。多くの自治体が民間経験者を対象とした採用枠を設けており、年齢要件を満たせば再チャレンジできるケースは少なくないと言われています。
つまり、「辞めたら二度と戻れない」というのは思い込みである可能性が高いわけです。私自身は戻る道を選びませんでしたが、戻る道があると知っているだけで、転職の決断に伴う恐怖はかなり和らぐはずです。
まずは戻れる前提で冷静に考えてみてください。
出戻りを保険にすると転職が中途半端になる理由
一方で、私が強く感じているのは、出戻りを保険にしすぎると転職そのものが中途半端になるという落とし穴です。「ダメなら戻ればいい」という心構えは安心材料になる反面、民間で踏ん張る覚悟を鈍らせてしまう側面もあると考えています。
私が1社目を6ヶ月で辞めた背景にも、心のどこかに逃げ道を残していた甘さがあったのかもしれません。一般論として、退路を断った人ほど新しい環境に適応しやすいとも言われます。
戻る道は知識として持ちつつ、実際の働き方では「戻らない前提」で全力を出すのが、後悔を最小化するバランスだと思います。
私が「戻らない」と腹を括れた妻の一言
最後に、私が「戻らない」と腹を括れた決定打は、妻の後押しでした。年収200万円ダウンという現実を前に揺れていた私に、妻は「お金より、あなたが家にいて笑っている方がいい」という趣旨の言葉をかけてくれました。
この一言で、戻るかどうかという問いそのものが小さく見えたのを今でも覚えています。もちろん、家族の状況は人それぞれですから、同じ選択が誰にでも正解とは言えません。
ただ、戻れるかどうかを一人で抱え込まず、身近な人と本音で話すことが、後悔のない決断につながると私は考えています。
公務員の出戻り採用は国も自治体も制度が変わり始めた
出戻りの採用枠は、国と自治体の両方で制度の整備が進み始めています。総務省は2023年12月の指針で、同じ団体へ戻る「キャリアリターン」を含む経験者の採用枠づくりを自治体に例示し、国家公務員も2026年4月から、公務経験者を含む専門人材の選考方法が見直されました。
ただし、どちらも元職員なら無条件で戻れる仕組みではありません。能力の実証が前提で、同じ自治体に戻れない条件も地方公務員法で決まっているため、制度が広がったことと自分が戻れることは分けて確かめる必要があります。
総務省の指針がキャリアリターン採用枠を例示した
総務省が2023年12月22日に公表した「人材育成・確保基本方針策定指針」には、経験者採用の取組例として、同じ団体への復職、いわゆるキャリアリターンを含む行政経験者の採用枠の創設が挙がっています。国が自治体に向けて、元職員を採る枠を作ることを例として示した形です。
同じ指針は、経験者採用でも地方公務員法の平等取扱いの原則(第13条)と成績主義(第15条)に留意し、経験者であることだけで採用を決めず、能力実証を行ったうえで判断するよう求めています。元職員という経歴は、試験や選考を省く理由にはなりません。
枠を設けるかどうかは、それぞれの自治体の判断に任されています。指針があることと、あなたが辞めた市役所に出戻りの枠があることは、別の話として受け止めておくのが安全です。
国家公務員は公務経験者の選考を一部省ける場合がある
国家公務員では、人事院が「人事院規則8-12(職員の任免)の運用について」を改正し、2026年4月1日から施行しました。公務経験者を含む専門人材を選考で採用する場合、資格や実務経験などで官職に必要な能力が客観的に認められるときは、通常の選考で求める能力実証の方法の一部を省略できるようになっています。
省けるのは選考の一部で、能力の確認そのものがなくなるわけではありません。対象は国家公務員の選考採用なので、市役所や県庁の職員にそのまま当てはまる制度でもありません。
私は、国の動きを地方でも同じ扱いになる根拠にはしないほうがよいと考えています。戻りたい自治体の募集要項に出戻りの枠が載るまでは、「戻れる」と数えずに計画を立てるのが現実的です。
出典:人事院「令和8年人企ー422『人事院規則8ー12(職員の任免)の運用について』の一部改正について」
同じ自治体へ出戻りできない欠格条項を確認する
地方公務員法第16条は、職員になれない人や、競争試験・選考を受けられない人を欠格条項として定めています。出戻りで特に関係するのは、その地方公共団体で懲戒免職の処分を受け、処分の日から2年を経過しない人は、条例で定める場合を除いて受験もできないという規定です。
自己都合で退職した人がこの条項に当たることは通常ありません。拘禁刑以上の刑の執行を終えていない人なども欠格条項に含まれるので、心当たりがあれば募集要項の受験資格欄を先に読んでおきましょう。
| 確認すること | 根拠 | 出戻りへの影響 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 出戻りの採用枠があるか | 総務省の指針(取組例) | 枠を設けるかは自治体の判断 | 自治体の採用ページ |
| 能力実証の方法 | 地方公務員法第15条 | 元職員でも試験や選考を受ける | その年度の募集要項 |
| 欠格条項 | 地方公務員法第16条 | 同じ団体で懲戒免職から2年以内は受験できない | 条例・人事担当 |
| 国の選考の見直し | 人事院規則8-12の運用通知 | 国家公務員の選考採用が対象 | 人事院・各府省の採用情報 |
自己都合で円満に辞めた人にとって、出戻りの壁は法律よりも募集要項と面接です。表の4点を押さえたら、あとは面接で何を話せるかに準備を振り向けるのが近道だと思います。
公務員の出戻りを決める前に私が使う判断基準
公務員の出戻りを考えるなら、「戻れるか」より先に「戻って何が変わるか」を言えるかどうかで決めるべきだと私は考えています。面接で問われるのもそこで、辞めた理由と戻る理由がつながらないと、採用する側も本人も同じ後悔を繰り返す心配を消せません。
私自身は1社目を6ヶ月で辞めたとき、市役所には戻らず、民間で2回目の転職を選びました。
民間で得たものを言えない出戻りは同じ不満に戻りやすいと私は見ています。辞めなきゃよかったと感じた日も、出戻りと再転職を並べて比べるのが先です。
出戻りの面接で問われる辞めた理由と戻る理由
出戻りした人の体験談を読むと、面接で話題になりやすいのは「なぜ辞めたのか」と「なぜ戻りたいのか」です。退職理由が人間関係のもつれだった場合は、同じ自治体を避けて別の自治体を受けるという考え方も紹介されています。
私は採用の担当部署にいたわけではありませんが、職員として働いた感覚から言うと、組織が気にするのは「またすぐ辞めないか」と「民間で何を身につけてきたか」の2点だと思います。
「民間が合わなかったので戻りたい」だけでは、辞めた理由を打ち消す材料になりません。民間で覚えた仕事の進め方を、戻った先のどの業務にどう使うかまで具体的に話せるかが分かれ目です。
民間で何も持ち帰れない出戻りを私は勧めない
私は、民間での経験を言葉にできないまま公務員に戻ることは勧めません。戻った先には、辞める前に抱えていた異動の不安や、繁忙期の長い残業もそのまま待っているからです。
私自身、市役所時代には年間の残業が300時間を超えた時期がありました。こうした働き方は、出戻りしても組織の側が変わっていなければ同じ形で待っています。
反対に、民間で身につけたことがはっきりしているなら、出戻りは後退ではありません。私は1社目を半年で辞めましたが、そこで覚えた民間の働き方と基礎的なWebスキルは、2回目の転職で話せる材料になりました(書類通過率は1回目の2割程度、2回目は5割程度)。
出戻りするかどうかは、民間で何を持ち帰ったかを一文で言えるかで決めるのが私の基準です。辞めたあとの4年間で私の生活がどう変わったかは、公務員を辞めた末路と4年たった私の現実にまとめています。
辞めなきゃよかったと感じた日に比べる3つの道
「公務員を辞めなきゃよかった」「人生終わりだ」と感じる日は、出戻りしか道がないように見えがちです。ですが、その日に比べるべき選択肢は少なくとも次の3つあります。
- 今の会社に残り、不満の原因が部署や上司なのか、仕事そのものなのかを切り分ける
- 民間でもう一度転職し、1社目で得た経験を次の会社選びの条件に生かす
- 公務員の採用試験を受け直し、元の自治体への出戻りや別の自治体への転職をめざす
3つを並べたら、それぞれを選んだ場合に半年後の自分の仕事と家計がどうなっているかを書き出してみると判断しやすくなります。出戻りだけが具体的に書けないなら、戻りたい気持ちより、今の職場から離れたい気持ちが先に立っている可能性があります。
眠れない、食事がとれないといった心身の不調が続いているときは、決断の前に医師や勤務先の産業医へ相談してください。出戻りの道を残したい人は、辞めるときの挨拶や引き継ぎも将来の評価につながるので、公務員の退職挨拶のタイミングと回り方も確認しておくと安心です。
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公務員の転職と後悔についてよくある質問(FAQ)
ここまで読んでも、細かな疑問はまだ残っているはずです。そこで最後に、私が市役所を辞める前に最も知りたかったこと、そして読者の方からよく寄せられる疑問を、FAQ形式でまとめてお答えします。
結論として、年齢も年収も「絶対的な壁」ではなく、準備と覚悟しだいで乗り越えられる要素だと私は考えています。一次体験に基づいて、できるだけ正直にお答えしますので、最後の判断材料にしてください。
公務員からの転職は何歳までが現実的ですか
結論から言えば、年齢が上がるほど選択肢は狭まる傾向にあるものの、35歳前後でも転職は十分に現実的だと私は考えています。私自身、市役所15年以上勤務を経て35歳で民間に移りました。
一般的に、年齢が上がるほど即戦力としての期待値が高まるため、未経験職種への挑戦はやや難しくなると言われています。ただ、公務員時代の経験を民間の言葉に翻訳できれば、年齢はハンデばかりではありません。
何歳かよりも、自分の強みをどれだけ具体的に語れるかが大切だと感じています。年齢を言い訳にする前に、棚卸しから始めることをおすすめします。
年収はやはり下がると考えるべきですか
正直にお答えすると、年収は一時的に下がる前提で考えておくほうが安全だと私は思います。私の場合は転職で年収が200万円ダウンしました。
一般論として、公務員から未経験職種へ移る場合、当初は収入が下がるケースが多いと言われています。ただし、これはあくまでスタート地点の話です。
その後のスキル習得や成果しだいで、収入を回復・向上させられる可能性は十分にあると考えています。私自身も在宅Webマーケターとして働き方を変えながら、生活の納得感を取り戻しました。
目先の年収だけでなく、数年後の伸びしろまで含めて判断することが後悔を防ぎます。
転職してすぐ後悔したらどうすればいいですか
もし転職してすぐ後悔しても、結論として、衝動的にもう一度辞めるのは避けるべきだと私は考えています。私は1社目を6ヶ月で辞めましたが、振り返ると「合わない」と感じた瞬間の感情だけで動いてしまった反省があります。
一般的に、新しい環境への違和感は数ヶ月から半年ほどで和らぐことも多いと言われています。ですから、すぐに後悔を感じても、まずは何が辛いのかを具体的に書き出し、一定期間は様子を見ることをおすすめします。
それでも改善しないなら、次は条件を絞り込んだ上で動けば、同じ後悔を繰り返さずに済むはずです。
転職を「何から始めるか」を段階別に整理した記事もあります。あわせてどうぞ → 公務員の転職は何から始める?元市役所15年以上の私が使った相談先とサービス
転職サービスの具体的な選び方は、私の失敗談も含めて別記事に詳しく書きました。
(関連記事)公務員の転職エージェントおすすめ比較|元市役所職員が選ぶ最初の3つ
まとめ:後悔先に立たず
市役所を辞めて民間に行く。それは間違いなくイバラの道です。
最初の1年は、年収が下がり、仕事のスピードについていけず、「なんで辞めてしまったんだ」と後悔する夜が必ず来ます。私もそうでした。
ですが、私は今、15年という重いサンクコストを捨てて手に入れた「自由」と「自分自身で人生をコントロールしている感覚」に、心の底から満足しています。
あの時、勇気を出して飛び出さなければ、私は今頃も市役所のデスクで「どうして、あの時決断(退職)しなかったんだ。」と、終わりのない愚痴をこぼしながら、定年までの日数を数えていたでしょう。
その未来の方が、一時的な年収ダウンよりも、よっぽど恐ろしい「後悔」だったはずです。
今すぐ辞める必要はありません。まずは「転職活動」だけ始めてみてください。
職務経歴書を書き、エージェントと話し、自分の市場価値を知る。それだけならノーリスクです。
お金もかかりません。
もし、そこで良いオファーがなければ、今の職場に感謝して残ればいいのです。
ですが、もし「あなたの経験が必要です」と言ってくれる企業に出会えたなら。その時こそ、石橋を叩く手を止めて、一気に走り出す時です。
あなたの15年以上は、決して無駄ではありません。自信を持って、最初の一歩を踏み出してください。


